東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)47号 判決
事実及び理由
一 請求原因一ないし同三の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、原告らの主張する取消事由の存否について検討する。
1 請求原因四の1について
引用例に、「両端に外向平鍔部2、2を形成した弾性物質よりなる半管状樋体1の二個をその両端の平鍔部2、2において相接合一体化した弾性管」の記載があることは、原告の自認するところであるが、これと、審決が認定している「半管状樋体をその両端の平鍔部で相接合一体化した弾性管」とは実質上一致するものと解されるから、原告らの主張は理由がない。
なお、審決の右認定は、引用例の前記記載と比較すると、両端の平鍔部が外向であるか内向であるかについて明示がない点で一応の相違があるが、平鍔部を内向にすることは一般的ではないのみならず、ホースの断面形状が口唇形である本願考案との対比にあたつては、当然に、引用例に示された外向平鍔部を有するものを考慮に入れるべきものであるから、この点は、本件についての判断の妨げとなるものではない。
2 その2について
原告らは、その主張の(一)(二)に係る認定事実については証拠がないという。
しかしながら、右(一)は、一般に物体が引張られたり折られたりするとき最も弱い部分から破損することは明白な事実であり、そのような場合破損を避けるため、予め弱い部分に補強材を添着したり、その部分を太くしたり厚くするようなことは当業者が広く実施している慣用技術であり、これを、物体に発生する単位面積当りの応力の大きさからみて、材料力学的に表現すれば、「(材料に発生する)最大応力をその発生部分の(断)面積を増加することにより緩和する」ということになるのであるから、それが従来極めて普通に知られている技術手段であるとした審決の認定に誤りはない。
また、(二)の点については、成立に争いのない乙第一号証によれば、「シリコーンゴムはシート状、リング状、管状の出来上つた成形品も売出されている。」(第二五二頁八行、九行)、同乙第二号証によれば、「シリコーンゴムの利用。(1)航空機産業―シリコーンゴムから気密性のシーリング、……エアパイプ……部品をつくる。」(第四四四頁)との各記載があること及び両者とも本願考案の登録出願前に発行された書籍に係るものであることが認められ、これによつて右(二)の点が本願考案の登録出願前より周知の事項であつたことは明らかであるから、審決の認定に誤りはない。
なお、この点について、原告らは、乙第一号証、第二号証には、シリコーンゴムが管材料として使用されていることが記載されているにとどまり、シリコーンゴム製管の具体的形状についての開示はないと主張しているが、乙第一号証、第二号証は、右(二)の「シリコーンゴムを弾性管材料として用いること」が周知の事項であることの証拠として提出されているものであるから、原告らの右主張は的はずれであり、失当である。
しかも、原告らのいう具体的形状については、前記1の項の説示及び成立に争いのない甲第三号証により認められる第一図の図示(後に詳述する。)によつて明らかなとおり、引用例にも、断面形状を口唇形にしたものが示されているのである。
3 その3について
原告らは、審決が本願考案の顕著な作用効果を看過しているという。
(一) その主張の(一)について
引用例には、前述のとおり「両端に外向平鍔部2、2を形成した弾性物質よりなる半管状樋体1の二個をその両端の平鍔部2、2において相接合一体化した弾性管」の記載があり、その第一図(別紙(〔編註〕省略)第二図面参照)には、横断面がほぼ半円形をなし、その両端部は半径方向に円周方向から順次湾曲して伸びる外向平鍔部2、2とした半管状樋体1の二個を、その両端平鍔部2、2において相接合した弾性管、換言すれば、その横断面が口唇形をなす弾性管が示されており、しかも、「本案品をピンチコツク又はホースポンプに使用するに当つては、半管状樋体1、1をその平鍔部2、2の接合面と直角に交わる方向に向けて押圧する限り、これら半管状樋体1、1は、その平鍔部2、2と平行方向に無理なく押し伸されて、第二図に示すように二枚の平板を重ねたと同じ状態の閉鎖状態を呈するに至り、この閉鎖状態において、半管状樋体1、1は従来品に見られたような管を裂損する無理な引張り応力はどこにも発生することなく、」(第一頁右欄一六行~二五行)との記載があり、これらの記載によれば、引用例の弾性管は、その横断面が口唇形をなすように構成されているものであり、これをその平鍔部2、2の接合面と直角方向に押圧した場合、弾性管が平板を重ねた状態に、すなわち、弾性管の内周が一直線状に閉じ、従来一般に用いられている断面形状が円形の弾性管(ホース)のようにその内周の両端部の閉鎖を不確実にすることがないという本願考案におけると同一の作用効果を期待できるものであることが明白である。
原告らのいう(一)の作用効果は、引用例のそれと差異はなく、本願考案に特有の作用効果とはいえない。
(二) 同(二)について
前示のように、引用例のものは、半管状樋体を相接合一体化して横断面の形状が口唇形をなすようにした弾性管であり、半管状樋体は、平鍔部を含めて全体がほぼ均一の厚さに形成されているものとみられるから、二個の半管状樋体を相接合した平鍔部は接合部分以外の個所のほぼ二倍の厚さを有しており、したがつて、同部分は他の部分より大きい強度を有するものと考えられる。
しかも、引用例には、相接合した平鍔部の強度を他の部分より増加させることについて明示されていないとしても、一般に、他の部分より大きな強度を必要とする部分について、必要な強度を確保するために当該部分に添着物を設けたり、その部分を厚肉にするようなことは、本願考案の登録出願前すでに慣用の技術であり、管体の横断面を口唇形としたことに応じ極めて容易に適用しうべき当然のことである。
原告らのいう(二)の作用効果も本願考案に特有の顕著な作用効果ということはできない。
(三) 同(三)について
原告らのいう(三)の効果は、いずれも、周知のシリコーンラバー自体が本来具有する基本的性質であつて、シリコーンラバー製品に共通の効果に過ぎず、本願考案にシリコーンラバーを採用したことによる特有の作用効果とは認められないので、原告らの主張は理由がない。
4 その4について
本願考案のホースにおいては、口唇形の両端位置が破損し易い部分であり、この部分を肉厚にするようなことは、最大応力をその発生部分の断面積を増加することにより緩和することが従来極めて普通にされている慣用技術である以上、当業者が必要に応じて極めて容易に想到できることであり、これに上来の説示を併せ考えるときは、本願考案の進歩性についてした審決の判断に誤りはなく、原告らの主張は理由がない。
原告らは、「ホース全体が一体成形により形成されること」「ホース断面のいずれの位置にも接合面がないこと」を加え主張するが、これらの事項は、本願考案の実用新案登録請求の範囲にはもちろん、明細書のその余の部分にも記載されていない事項であつて、本願考案の構成に欠くことができない事項(実用新案法第五条第二項、第五項)に含まれるものとは解せられない(なお、本願考案の図面に記載されたものは、一実施例を示すに過ぎないと解するほかはない。)から、右の事項が本願考案の要旨の一部であることを前提とする原告らの右主張は失当である。
三 以上の次第で、原告らの主張する取消事由はすべて理由がないので、本件審決の取消を求める原告らの本訴請求は失当として棄却することとする。